(45) The Art Pepper Quartet (1956)/ Art Pepper

The Art Pepper Quartet

The Art Pepper Quartet

53年録音の『Surf Ride』を聴くと、アート・ペッパーのプレイ・スタイルはすでに完成されていて、バップを完全に消化したワン・ランク上の独特なアドリブ・フレーズが迸っているのに驚きを禁じえない。
が、アートはこの直後(53年3月?)に麻薬がらみで最初の逮捕を食らい、翌年保釈されてわずかな録音を残すが、再逮捕、結局56年6月まで服役している。61年には、何度目かの逮捕の末、長い長いリタイヤ状態に入ってしまうので、75年のカムバック後を除けば、アート・ペッパーの名演は、56年8月の『ザ・リターン・オブ・アート・ペッパー』から60年11月の『Intensity』までに集約されている。
昔は幻の名盤として珍重されたアラジン系の『The Return of・・・』や『Modern Art』は、今ではコンプリート化もされていつでも手に入るし、日本では57年マイルスのリズム隊と演った『Art Pepper Meets The Rhythm Section』が恐ろしい人気を誇っているが、僕の昔からの愛聴盤は、56年にTampaというマイナーレーベルに残した『Marty Paich Quartet featuring Art Pepper』とこの『The Art Pepper Quartet』の2枚のアルバムである。レーベルのマイナーさゆえか、再発されては廃盤を繰り返しているようなので、現在簡単に手に入るかどうかわからないが、見かけたら有無を言わず買っておくべし、である。


ちょっと濃いめのラテン素材をクールでソフィスティケイトされた独自のポップ感覚で料理した「Besame Mucho」もカッコイイが、技術とエモーションとリリシズムの完璧な融合とでも言うしかない「I Surrender Dear」や、美しくも緊張感に満ちたバラッドの「Diane」がペッパーらしい。
ジャケット等で散見する「ヤサ男」風のイメージに似合わず、かなり野性的な男だったペッパーだが、下手をすれば暴走・逸脱しがちな強烈なエモーションをきちんと音楽に繋ぎとめているのは、もちろん彼の完璧な演奏テクニックであって、「Art's Opus」や「Pepper Pot」等ミディアム・テンポでの見事なタンギングは、あらゆるサックス奏者のお手本である(前にも同じようなことを書いたっけ?)。


絶頂期のラス・フリーマンのピアノを存分に聴けるのもこのアルバムの魅力のひとつ。ガーランドとの共演もいいが、ペッパーのアルトはやはり気心の知れた西海岸の仲間たちと演ったときに一番輝く。


50年代の100枚リスト