(51) 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia (1956) / Kenny Dorham

カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム

カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム

チャーリー・パーカーのレギュラー・クインテットジャズ・メッセンジャーズの初期メンバーとして、40年代末から50年代中葉のジャズ・シーンの重要な場面にちょくちょく顔を出していたケニー・ドーハムだが、僕らのイメージとしてはこの人どこか二番手ピッチャーという感じが強い・・・という話は前に書いたが、そのドーハムが満を持して?自らのリーダーシップで結成(1956)したのが”ジャズプロフェッツ”というクインテットだった。
が、この年の6月に急死したクリフォード・ブラウンの後釜として、まもなくリーダーのドーハムがマックス・ローチのグループに参加したため、このユニットは自然消滅し、ひどく短命に終わってしまう。遺したのはたった2枚のアルバムで、その名も『ザ・ジャズ・プロフェッツ』と銘打ったスタジオ録音盤(ジャケットにはVol.1となっているがVol.2は無い)と、この『カフェ・ボヘミアケニー・ドーハム』というライブ盤である。というわけで、”ジャズプロフェッツ”はフロントの一翼を担ったJ.R. モンテローズという稀有なテナー奏者とともに、50年代の幻のユニットの一つとして歴史に刻まれることになる。


この辺のドーハムの動向は、50年代中葉のジャズ・シーンの状況を示唆しているような気がしないでもない。当時のいわゆるハード・バップをリードした主要な流れは3つあって、一つはマイルス・デイヴィスのグループ、もう一つはアート・ブレイキーホレス・シルヴァーを中心としたジャズ・メッセンジャーズの流れ、そしてもう一つがマックス・ローチクリフォード・ブラウンの双頭コンボだったのだと思う。ブラウニーの死でこの鼎の一足が欠けた。ドーハムとしては、自らのコンボに固執して鳴かず飛ばずで終わるよりは、この三本柱の一つに参加できるならばそっちの方がジャズシーンの第一線で活躍できる、と感じたのかも知れない。あるいはそんな計算ずくは全くなく、パーカー・バンド以来のマックス・ローチへの恩義と信頼から馳せ参じただけなのかもしれない・・・。


と、そんな空想をめぐらしてもしょうがないので、このアルバムのことを書く。


”ジャズプロフェッツ”のライブ盤と言ったが、これはチョット正確ではない。というのも、このライブでは、初代のピアニストだったディック・カッツがすでにボビー・ティモンズに交替しているのと、デビュー間もないギタリスト、ケニー・バレルが参加しているからだ。バレルは、この日幾つかあったステージの途中から参加したらしいが、プレイは好調そのもので、本体のクインテットの存在を食ってしまいそうな勢いだ。バレルのデビュー盤は同じブルーノートの『イントロデューシング・ケニー・バレル』で、このライブの前日・前々日の録音だから、デビューの勢いをかってこのライブ・パフォーマンスに臨んだといっていい。キャンディドのコンガ入りのややユニークなリズムで演った『イントロデューシング・・・』よりも、こちらの方が、よりオーソドックスでストレートなバレル初期の演奏が聴ける、と言っていいかも知れない。


当のドーハムのトランペットに関せば、54年にJMの初代トランペッターとして参加した『カフェ・ボヘミアジャズ・メッセンジャーズ』などを聴くと、かなり目いっぱいハードに吹いていたような気がするが、この日のライブでは、高音域はかなりブリリアントなトーンでブロウしているものの、中音域はやや音量を落としてダークなくぐもった音でもって、あえてコントラストをつけているような感じがする。この辺は、『静かなるケニー』あたりに至る傾向かと思う。
テナーのJ.R.モンテローズは、チャールズ・ミンガスの『直立猿人』でジャッキー・マクリーンと共にフロントを飾った奏者だが、このジャズプロフェッツの2枚のアルバムの後、『J.R.モンテローズ』というリーダー作をブルーノートに残す。が、その後鳴かず飛ばずのままジャズ・シーンの一線からほとんど姿を消してしまう。
このモンテローズのやや朴訥でギクシャクっぽいテナーを、斬新と見るか聴きづらいだけと取るかは意見の分かれるところだろうが、その辺は『J.R.モンテローズ』をレヴューする機会が(多分?)あると思うので、その時になにか書いてみようと思う。


チュニジアの夜」や「ニューヨークの秋」を取り上げた流れで、地名ノリでしゃれてみたのか、「モナコ」や「メキシコ・シティ」といった地名チューンが並んでいるが、「メキシコ・シティ」という曲は明らかにバド・パウエルの「テンパス・ヒュージット」と同曲だし、「モナコ」もどこかで聴いたことがあるような、ないような・・・。


50年代の100枚リスト