(41) Tal (1956) / Tal Farlow

タル

タル

初っ端の①「Isn't It Romantic」で、ギタリスト垂涎の”人工ハーモニクス”の超絶技巧のソロから一転して低音を多用するシングル・トーンのダイナミックなソロへと、タル・ファーロウのテクニック満開である。
タル・ファーロウの愛用したギブソンのギターは、普通よりチョット短いショート・スケールの楽器で、かなり太い弦を半音分くらい緩く張るから独特の野太いトーンになっているらしい。特に低音弦のどこか津軽三味線を思わせるような粗野でアーシーな響きは、嫌いな人は嫌いだろうが、好きな人は病みつきになる。僕も病みつきの一人である。
この低音から中高音まで粒の揃った速弾き技は、後のパット・マルチーノを彷彿とさせ、大のマルチーノ贔屓の僕としては、これまた病みつきである。


が、タルの怒涛のギター・パフォーマンスもさることながら、このアルバムの魅力の半分は、不世出の奇才ピアニスト、エディ・コスタの参加にある。コスタのプレイもまた、極端に低音を多用するものだが、低音弾きそのものよりも、すこぶるパーカッシヴな演奏スタイルが唯一無比、ワン・アンド・オンリーというしかない。
③「How About You」での蒸気機関車のようなゆるぎないドライヴ感もすごいが、なんといっても超高速で演った⑤「Yesterdays」の斬新で個性的なプレイは、ジャズ・ピアノの歴史に残る快演(あるいは怪演?)というべきものだ。コスタはヴィブラフォン奏者でもあったが、まるで指をマレットにして鍵盤に叩きつけるようにして繰りだされる一音一音が、くっきりした輪郭の強烈なスウィング感を生み出す。


タル・ファーロウエディ・コスタが繰り出す強烈なビートとドライヴ感は、ドラムスの参加を不要なものとした。というよりも、ここに下手なドラムなど加えたら、リズムがぶつかり合ってかえってギクシャクしたものになってしまったかもしれない。そのかわり、といってはなんだが、ヴィニー・バークのベースが二人の奔放なプレイを包み込むように、オーソドックスだが実に伸びやかなトーンで支えている。このバークの堅実で音程の良いベースも特筆するに値する。


この稀有なギター・トリオが根城にしていたN.Y.の「コンポーザー」というクラブが1958年に閉店すると、タルはジャズ・シーンから姿を消して田舎に隠遁してしまう。どうやら本業?のペンキ屋にもどったようなのだ。
そんなダンディズムを感じさせるような引退劇もあって、60年代あたりはまさしく”伝説”のギタリストだったタル・ファーロウだが、1968年のニューポート・ジャズ・フェスティバルでジャズ・シーンに復帰する。復帰後のアルバムもあるが、僕にとってタル・ファーロウはやはり50年代後半に残した数枚のアルバムに尽きる。タルには最後まで伝説のギタリストであってほしかった、という気がしないでもない・・・。


50年代の100枚リスト