(32) Opus de Jazz (1955) / Milt Jackson

Opus De Jazz

Opus De Jazz

昔、何かのライヴ演奏を見に行った際、休憩時間にヴィブラフォン(ヴァイブ)の現物を間近で見せてもらった覚えがある。その時、この楽器の手前の方にくっ付いているコントローラーのようなものを指して、誰かが、「ヴァイブってのはエレキ楽器なんだよ」と言っていた。
ヴィブラフォンには、共鳴パイプの上部に電動モーターで回転するファンがついていて、この回転によってパイプの共鳴を周期的に変化させヴィブラートがかかったような効果を出す。ヴィブラフォンという名前の由来もその辺から来ているらしい。ファンの回転速度はコントローラーで制御でき、それによってヴィブラートの周期速度も変化する仕組みになっている。


この楽器が発明されたのは1930年代の前半で、これを使いこなした最初の名人がライオネル・ハンプトンだったと言って間違いないだろう。ただし、本職はドラマーだったハンプトンのヴァイブ演奏はやはり打楽器的なアプローチで、ヴィブラートも非常に速い設定である。西海岸の名手テリー・ギブスも同様だと思うし、ジョージ・シアリングのグループでのジョー・ローランドらのヴァイブは、ピアノとのアンサンブルの加減もあるが、ファンを停めたノン・ヴィブラートのようだ。


ミルト・ジャクソンの演奏の特徴の一つは、電動ファンの回転を思い切って遅くし、非常にゆっくりとしたヴィブラートを付けるところにある。これは持続音をかなり長く取ることを前提にしているわけで、この持続音を足元のダンパーペダルで微妙に調整し、残響を利用した独特のサウンドとニュアンスを打ち出した。
このかなりデリケートな演奏技術と、ファンキーの代名詞となったブルース・フィーリングや猛烈なスウィング感が混然一体となったジャクソンのプレイは、この時期のヴァイブ演奏としてはもうほとんど孤高のレヴェルにあった。


ミルト・ジャクソンジョン・ルイスらとMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)を結成したのは1951年だったが、この1955年にはドラムのケニー・クラークが抜けてコニー・ケイと交代し、以後何十年も継続する不動のメンバーが固まった。このメンバーでの初アルバムが同年の『コンコルド』だったが、これは以後のMJQのサウンド.カラーを決定付ける1枚だったと言っていいはずだ。その『コンコルド』の3ヶ月後に録音されたのが『オパス・デ・ジャズ』である。


この2枚を聴き比べてみると、MJQでのお行儀のよい正装ジャズと、他のセッションでのリラックスした普段着ジャズの対照が絵に描いたように歴然とするが、このどちらが本来のミルト・ジャクソンなのか、などと不毛な議論をしても仕方がない。要は、MJQでのジャクソンはこのグループのトータルサウンドに貢献する事に徹したのであり、持ち前のソウルフルなプレイは他の形で表出しただけであって、この両刀使いこそ彼がクレバーなミュージシャンであった証である。


このアルバムでフルートとサックスで参加しているフランク・ウェスは、ベイシー楽団をはじめ多くのビッグ・バンドを渡り歩き、フルートの導入でビッグ・バンド・サウンドの幅を広げた功労者であるが、このアルバムでもウェスのフルートとジャクソンのヴァイブのハーモニーがえもいわれぬ雰囲気を醸しだす。
ウェスの演奏スタイルは基本的にはスウィング時代のものだが、カンサス直系のアーシーなブルース・フィーリングが、このアルバムのファンキーな雰囲気を強調して余りある。4曲中3曲がブルース物で、全篇ファンキー・ムードが横溢する。ファンクの根っこにブルースがあることは明らかだが、そのルーツを辿るならやはりカンサス・シティーの方角は無視できないだろう。


この二人がお互いを煽りながら豪快なブルース・フレーズを繰り出す中、ほとんど我関せずという風情で、地味ながらオシャレなピアノをポロンポロンと弾いているオッサンは、もちろんハンク・ジョーンズである・・・。


50年代の100枚リスト