(28) Clifford Brown & Max Roach (1954-55)/ Clifford Brown

クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ+2 (紙ジャケット仕様)

クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ+2 (紙ジャケット仕様)

ブラウニーに関しては今までさんざん賞賛してきたので、今日は無敵のハードバップ名盤『Clifford Brown & Max Roach』にイチャモンをつけてみようかと思う。


このアルバムは、54年にLAで結成されたクリフォード・ブラウン&マックス・ローチ双頭クインテットの初スタジオ・セッションという触れ込みで、このユニット初期の名演を集めたものとされている。が、このアルバム(当初のLP盤)7曲の内2曲は翌年ニューヨーク進出後の55年2月、あの『スタディー・イン・ブラウン』のセッションで録音された音源である。その2曲とは「Blues Walk」と「What Am I Here For」で、特に前者はブラウニーとハロルド・ランドとの絶妙に息の合った掛け合いが売り物の、あらゆるブルース演奏の中でも稀有なる名演にしてこのアルバムの中でも白眉の快演だが、これがこのコンボ初期の他の演奏とゴッチャに捉えられると、ある種の誤解が生じる。ブラウニーもこのクインテットも初めからこんなにすごかったんだ・・・と。手放しでそう言ってしまったら、あとは何にも言えなくなってしまう。
僕は、ブラウニーが本当の意味での成長を遂げたのはエマーシーに幾多の録音を残した人生最後の2年間だった、と思っているので、たった半年でも収録年月の差異を無視するのはナシにしておきたい。ブラウン自身のプレイにしても、このユニットのチームワークにしても、54年8月と55年2月では格段の相違がある。


ちなみに、このコンボのエマーシー最初のスタジオ・セッションの日程と曲目は次のとおり。

【1954/8/2】
・Delilah*
・(Darn That Dream)
・Parisian Thoroughfare*
【1954/8/3】
・Jordu*
・Sweet Clifford**
・(Ghost of a Chance) **
【1954/8/5】
・Stompin' at the Savoy**
・I Get a Kick Out of You**
・(I'll String Along With You)
【1954/8/6】
・Joy Spring*
・(Mildama)**
・(These Foolish Things)
・Daahoud*


*印はこの『Clifford Brown & Max Roach』に、**は『Brown / Roach Inc』に収録されている。別テイクを含む他の曲は、コンプリート物や+α物に色んな形で収録されている。カッコ書きした5曲は、それぞれ、ハロルド・ランドのテナー、ブラウニーのトランペット、リッチー・パウエルのピアノ、マックス・ローチのドラムス、ジョージ・モロウのベースを全面的にフューチャーしたナンバーで、クインテット演奏とは趣向が違う。思うに、これらの演奏はこのクインテットの各メンバーのプロモーション演奏の意味合いがあったのではないか?


ブラウンとローチが組んだ最初のクインテットのサックスはソニー・スティットだったらしい*1。スティットは6週間ほどで辞め、次のサックスはテディー・エドワーズだったが、その頃(54年4月)のライヴ演奏が『イン・コンサート?コンプリート・ヴァージョン』に収められている。ピアノはカール・パーキンス、ベースはGeorge Bledsoe(読み方わからず)。最終的にレギュラーメンバーに固まったのは54年6月頃らしく、8月のスタジオ・セッションまで約2ヶ月。この短い間に、これだけのチームワークを築きあげたのはすごいもんだが、ことブラウニーに関しては、この8月のセッションは必ずしも絶好調の演奏とはいえない、と僕は思う。


このころのブラウニーの演奏上の問題の一つは、ちょっとハイ・ノートにこだわりすぎているという点だと思う。ブレイキーとの『バードランド』や『イン・コンサート』でもそうなのだが、エモーションを誇示するためにかなり限界まで高音を連発することが多く、そのためにせっかくのブラウニー固有の中音域のブリリアントかつ暖かい音色を損ねている。あるいは、唇の酷使のせいかちょっと割れぎみの音、濁った音になっているような感じもする。この悪癖は例えば、この8月2〜6日のスタジオ・セッションの後に催されたスタジオ・ライヴ・ジャムセッション(8月14日)での演奏に顕著に出ていて、競演したメイナード・ファーガスンに挑むようにハイノートを連発した結果、明らかに自滅してバランスを欠いたプレイに陥っている。このアルバムでも、「Delilah」などにその傾向がある。
55年以降のブラウニーは、ハイノートはテンション的に時たま使うにとどめ、中音域のふくよかなトーンと圧倒的な吹奏テクニックで勝負する技を覚えた、ということだろう。『Study In Brown』でのブラウニーの音は、エマーシー初期の音に比べ格段と艶と張りのあるトーンになっている。さらに、最後のアルバム『At Basin Street』では、完璧なトーンコントロールで、しっかりとした芯のある、それでいて暖かくかつブリリアントでちょっとだけハスキーな、もう完全無欠の音色を獲得している。


というわけで、この名盤『Clifford Brown & Max Roach』、ブラウニーの自作曲を含む数々のキラー・チューンで楽しさ満開だし、アドリブのアイディアやテクニックも何ら問題ないが、ことブラウニーのラッパの音色に関してはちょっとだけ物足りないと思っている僕なのであった。うまく表現できなかったが・・・。


50年代の100枚リスト

*1:例えば「I Get A Kick Out Of You」のワルツ・タイムとフォー・ビートを巧妙に合体させたアレンジは、サド・ジョーンズのアイデアソニー・スティットがこのバンドに持ち込んだものらしい。スティット作の「ルーズ・ウォーク」すなわち「ブルース・ウォーク」がこのバンドのレパートリーになったのも、彼がメンバーだったからだと推定できる。