(26) Courts the Count (1954) / Shorty Rogers

ショーティ・ロジャース・コーツ・ザ・カウント (紙ジャケット仕様)

ショーティ・ロジャース・コーツ・ザ・カウント (紙ジャケット仕様)

ショー ティー・ロジャースといえば、僕が若い頃は『Shorty Rogers and His Giants』というアルバムが決定盤ということで衆目の一致するところだったが、昨今ではほぼ廃盤状態のようだ。ロジャースやケントンをはじめとするウェストコーストのビッグ・コンボやビッグ・バンドの業績がほとんど無視されているのが今の日本の状況だ。が、僕は思うのだが、この辺の西海岸のアレンジの手法は、60年代以降のハリウッドやTVのサウンド・トラックやポップスのアレンジに多大な影響を及ぼしていて、逆に言えば、今さら再評価などする必要もないほど、日常的に聴こえてくる音楽の中に焼きついていると言っていいかもしれない。


"Courts the Count"とは伯爵様の恩顧を賜る、伯爵の御機嫌をとる、といった意味合いだと思うが、"伯爵"とはもちろんカウント・ベイシー御大のことである。30〜40年代のベイシー楽団のヒット・ナンバーを、ロジャース流すなわち西海岸流のアレンジとソロでカヴァーするというのがこのアルバムの趣向で、なかなか楽しいアルバムに仕上がっている。


村上春樹は、「カウント・ベイシーの音楽は事情が許すかぎり大きな音で聴いたほうがいい」(ポートレイト・イン・ジャズ (新潮文庫))と書いたが、その所以は、ベイシーのポロンポロン・ピアノから急転直下フォルテ・シモの強烈なブラス・アンサンブルへと至るダイナミズムと、身体ごと持っていかれるような怒涛のスウィング感こそがベイシー・サウンドの肝であるからである。日本でも、アマチュアからプロまでベイシーをレパートリーとするバンドは多いが、この辺の肝さえ押さえておけばベイシー風のサウンドは一見出しやすい。
一方、ロジャースやジェリー・マリガン等のウェスト・コースト流のアレンジは、あまり音の強弱を強調せず、むしろ全篇メゾ・フォルテの流れの中で、個々の楽器の組み合わせの妙と独特のアンサンブル・カラーを出すことを主眼としている。
ベイシー・サウンドからその肝である「音量のダイナミズム」と取り去ってしまえば、下手をすれば平板で退屈なサウンドと化する可能性があるが、そこは編曲名人ショーティ・ロジャースのこと、ヴァラエティーに富んだ編曲手法を駆使して、ベイシーの泥臭いナンバーを都会的なセンス溢れるウェスト・コースト・ジャズに料理し直している。


メンバーも、このロジャースのアレンジにぴったりのソリスト揃いで、ズート・シムズバド・シャンク、ハーブ・ゲラー、ジミー・ジュフリー、ビル・ホールマンらのサックス隊が繰りひろげるアンサンブルとソロは、ベイシー・ナンバーに乗った「フォー・ブラザーズ」ってな感じだ。
さすがに、メイナード・ファーガスンやコンテ・カンドリを中心にしたブラス・セクションは強力で、ベイシーの金管隊とは全く毛色の違う風圧で咆哮する。


白いベイシーってのもなかなか楽しいのだ!


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