(24) Helen Merrill with Crifford Blown (1954) / Helen Merrill

ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

実は、僕はヘレン・メリルというシンガーの濃くて重たくてやや鬱陶しい歌唱法は、どうも青江美奈のムード演歌?を思い出して好きになれないが、それはそれとして、もちろんここでの聴きモノはブラウニーのきらめくトランペットソロである。ブラウン・ローチ双頭コンボでの演奏は凝ったアレンジのハード・バップ・スタイルのものが多く、歌モノやバラッドでのブラウン得意の歌心を満喫できるのは、幾つかの歌伴やウィズ・ストリングスのアルバムにおいてだが、中でもこの『ヘレン・メリル』は、クインシー・ジョーンズの控えめでツボを得たアレンジでブラウニーのソロを浮き立たせている。ほとんどメリルとブラウニーのデュエットという感じだ。


クリフォード・ブラウンについては、今まで色々と駄文を書いてきたので、今日は、このアルバムの白眉たる「You'd Be So Nice to Come Home To」の歌詞の謎について考察?する・・・。


「You'd Be So Nice to Come Home To」は、1943年にコール・ポーターが”Something To Shout About"という映画のために書いた曲だ。映画の方は、ポーター自身が「泣けてくるほどの(ひどい)映画」と評したくらいの駄作だったらしいが、この主題歌は同年のアカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、その後スタンダード曲になっていった。
戦中から終戦にかけてのアメリカでは、戦地から故郷を思う郷愁ソングや、復員兵の帰国と再会の喜びを歌ったいわゆる"Homecoming"ソングがいっぱい書かれたが、この曲が流行った一因にもそういった時代背景があったようだ。


さて、この曲には昔、誰がつけたか知らないが、『帰ってくれたら嬉しいわ』という邦題がつけられて、長らく歌詞の意味を取り違えられてきたことは、今やあまりにも有名な話だ。
結論を先に言うと、この歌詞の主人公は明らかに男で、「僕が家に帰ったとき君がいてくれたら嬉しいな」っていうような意味になる。
問題は最後にくっ付いている「to」だ。僕も学生時代、不思議に思って外人講師に聞いてみたが、「to の後に you が省略されていると思うが、なんかこの英語変ですよう・・・。アメリカ人の変な英語ですかねえ? こんな言い方しないですよう・・・」ってな曖昧な答えが返ってきた(ように思う)。ちなみに、その外人講師は、ウェールズ出身の生粋のブリテン人だったし・・・。


で、その後僕が発見したのは、この曲のヴァース(Verse)の存在だった。
昔のミュージカルやポピュラーソングには、本歌(Chorus)の前置きになるヴァースがある場合が非常に多く、これが本歌のニュアンスを捉えるのに役に立つのだ。で、この曲にもヴァースはあった:


It's not that you're fairer
Than a lot of girls just as pleasin'
That I doff my hat
As a worshipper at your shrine
It's not that you're rarer
Than asparagus out of season
No, my darling, this is the reason
Why you've got to be mine


"n"音で執拗に韻を踏んだポーターらしいヴァースではある。
ちょっと拙訳を施してみると:


巷のちょっといかした女の子たちの誰よりも
君が素敵だから、ってわけじゃない。
僕が君という聖堂で帽子を脱ぐ
崇拝者だから、ってわけじゃない。
君が季節外れのアスパラガスよりもっと
稀な存在だから、ってわけでもない。
そうじゃなくって、
君がぼくのものでなくっちゃならない理由はね・・・


でもって、この後:


You'd be so nice to come home to
You'd be so nice by the fire
・・・


と続くのだ。


というわけで、このバースから聴けば一目瞭然、これはまさに「プロポーズ」の歌だ。
一時のポットした惚れた腫れたの感情じゃないんだよ、僕が帰れば家に君がいる、そんな間柄になって、つまり結婚して、思う存分?愛し合いたいんだよう!って言ってるわけだ。


でも、この”You'd be so nice to come home to”を文法的にどう説明するんだろう?
この形だと"to come home"という不定詞の意味上の主語はどうしても"you"になってしまうから、例えば、”It would be so nice for me to come home to you”の口語的な表現と取るか、あるいは、”To come home to you would be so nice”を無理やり倒置した、とこじつけるぐらいしか思いつかないが、ちょっと苦しいなぁ・・・。


ということで、なんだか尻つぼみの「考察」であった(^o^;


なお、この曲の名演としては下記がおすすめ。
アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション+1 A Swingin' Affair! アランフェス協奏曲


50年代の100枚リスト