(21) A Night at Birdland (54)/ Art Blakey

バードランドの夜 Vol.1

バードランドの夜 Vol.1

バードランドの夜 Vol.2

バードランドの夜 Vol.2

「黒人の作ったものが、すっかり白人に盗み取られたってわけだ。よくある話さ。Shit ! 」
マイルス・デイヴィス


後に(いささか漠然と)ハードバップと呼ばれるようになるジャズのスタイルは、マイルス・デイヴィスアート・ブレイキーが共演した『Dig』(1951)や『Miles Davis Vol.1&2』(1952-54)あたりから醸成していった、と言っていいと思う。
こうした動きが、反=白人、反=ウェスト・コーストを旗印にした先鋒なムーブメントだったなどと言うつもりはないが、少なくとも当時の彼らの頭の中には、「俺達の方がスゲーのになぁ・・・」という嫉妬心や「白人野郎どもに目に物見せてやるぅ〜!」という反骨心が燻っていたのは容易に想像できる。あえて、ハード・バップは、ウェスト・コースト・ジャズに対するカウンター・パンチだったと言ってしまうなら、白に対する黒、黒人的なリズムやエモーションの強調というハード・バップの局面は非常にわかりやすい。


が、弁証法じゃないけれど、アンチテーゼの強調だけでは新しい価値を生み出す力となりえないのは当然で、彼らが模索していたのは、ビ・バップの復興ともいえるホットでスポンティニアスなアドリブ表現と、当時すでに浸透してきていた高度なアレンジによるグループ表現とをいかに融合させるか、ということだったはずだ。


そこに登場するのが、ホレス・シルヴァーという混血のピアニストだった。
シルヴァーの父親はポルトガル人(あの『ソング・フォー・マイ・ファーザー』のジャケットの人)、母親はアイルランド人と黒人のハーフだった。デヴューが白人ジャズの巨匠スタン・ゲッツのグループだったのもチョット意味深だが、白黒で割り切れない多彩な血と履歴を持つこの男が、ハードバップ生成の触媒の役目を果たした、などと言ったら図式的にすぎるだろうか?
いずれにせよ、ハード・バップの隆盛を決定付けた『Walkin'』と『A Night at Birdland』のピアニストが、ともにホレス・シルヴァーだったのは、単なる偶然ではありえない。


この『A Night at Birdland』を聴いていると、ひたすらホットでエネルギィッシュなバッキングで奏者を煽るブレイキーのドラミングや、猪突猛進タイプのドナルドソンの豪放なプレイだけでは、こんな統一感のある演奏にならなかったのは明らかで、やはりシルヴァーの曲とアレンジとバッキングの支えがあってはじめてこの稀有なライヴ・セッションが生まれた、と言っていい。
シルヴァー色は初っ端の「Split Kick」から横溢している。「There Will Never Be Another You」というスウィートなスタンダード曲のコードを使いながら、ラテン・リズムを挿入して、ホットだが親しみやすいジャズ・チューンに仕立てている。シルヴァーのバッキングは、こうしたスタンダード曲にしても、ブルース曲にしても、コード・チェンジやリズムの提示の仕方が端的に親切でわかりやすい・・・わかりやすいというのは、もちろん聴衆にとってという意味で、すなわちそれはポピュラリティーに大いに貢献する。


で、このセッションの屋台骨を支えたのはホレス・シルヴァーだったが、もちろんこのバンドの華は、ピー・ウィー・マーケットが”ニュー・トランペット・センセイション”と肝いりで紹介するクリフォード・ブラウンだった。マックス・ローチとの双頭コンボ結成前夜、テクニックもトーンもガレスピーファッツ・ナヴァロをすでに凌駕している。
ライヴだけあって、かなりエモーショナルかつエキサイティングなプレイに終始するが、ブラウニーのふくよかなトーンと心地よいメロディー感覚は、明らかにバップの焼き直し的な演奏とは一線を画す要素だ。
「Split Kick」や「Confirmation」でのアドリブが白眉だと思うが、「Once In A While」のバラード・プレイが歌心抜群。倍テンポになってからのシルヴァーのバッキングがおもしろい。


と、長々書いてしまったのが馬鹿馬鹿しくなるのは、このライヴ・アルバムのすごさは聴けば問答無用でわかるからだ・・・。