(18) Easy Like(1953, 56) / Barney Kessel

イージー・ライク+2

イージー・ライク+2

僕が若い頃は、バーニー・ケッセルといえば、”ポール・ウィナーズ”というユニットで50年代後半にコンテンポラリー・レーベルに残した幾つかのアルバムが定番で、60年代あたりは鳴かず飛ばずだったろうと勝手に思っていたが、後年、エメラルドという超マイナー・レーベルに眠っていた65年のライヴ録音が日本でも発売され、その怒涛の快演に度肝を抜かれたジャズ・ファン達は、あらためてケッセルというギタリストの存在を鮮明に頭に(いや、耳に)焼きつけたのだった。それが、『オン・ファイヤー』というアルバムだったが、僕なんかはこのアルバムから遡及的にケッセルの50年代をさかのぼり、最後にこの『イージー・ライク』に行き着いたというクチだ。


ミステリ小説の始祖がエドガー・アラン・ポーだった事に異を唱えるのが困難なように、モダン・ジャズ・ギターの開祖がチャーリー・クリスチャンだったことは異を待たないだろうが、クリスチャンのベニー・グッドマンとのセッションやミントンハウスでの演奏は、僕らにとっては到底リスナブル(聴きやすい)とは言いがたい録音だし、要するに今となってはいささか古臭い。そのクリスチャンの革新的な奏法の醍醐味を、僕らはバーニー・ケッセルの演奏を通して間接的に感得できる、と言っていいのかもしれない。
自他共に認めるクリスチャンの承継人たるケッセルだが、クリスチャンがレスター・ヤングを模倣する過程でマスターしたとされる、ひたすらホーン・ライクなシングルトーンによるアドリブに、バップ・イディオムを注入し、多彩なコード・ワークを付加して、初めてモダン・ジャズとして通用する洗練されたギター・スタイルを完成させたのがケッセルだった、と要約してしまったら・・・つまらないか(^o^;


ケッセルのプロ・ギタリストとしての経歴は1943年から始まっていて、スウィング後期の多くのミュージシャンやチャーリー・パーカーをはじめとするバップ・ミュージシャンとも共演しているし、このアルバムの直前までオスカー・ピーターソンのレギュラー・ギタリストを務めていたわけだから、この時期(53年)にはすでに(サイド・マンとしては)押しも押されぬジャズ・ギターのトップ・プレイヤーだったはずだ。
そのケッセルが、満を持して吹き込んだ事実上の初リーダーセッションが、『イージー・ライク』の内53年の8曲だったが、LP化に際して56年収録の4曲が追加されている。僕としては、56年の4曲はアルバム・コンセプト的には蛇足だと思う。まあ、3分前後の8曲ではLPとして曲数不足だったのだろうが・・・。


53年の録音の中でよく話題に上るのが「Salute To Charlie Christian」というトリビュート・ナンバーで、まさにクリスチャンへの敬意を表しつつ、その直系=主流たる自分の存在を自信を持ってアッピールしているわけなのだ。クリスチャンのミントンズでの名演で知られる「スウィング・トゥー・バップ」(=「トプシー」)のコード進行に「バークス・ワークス」のリフを乗っけたような、かなりパクリっぽい曲だが、わざとスウィング調のスクウェアなリズムにしていて、ケッセルのソロもシングル・トーンが中心だし、たぶん意識的にクリスチャンの雰囲気を演出したのだろう。
が、さっき超久しぶりにクリスチャンの「スウィング・トゥー・バップ」を聴いてみたが、ケッセルよりずっとホットでエモーショナルだった。ケッセルはやはり西海岸の選手なのだ。


このアルバムの特徴の一つは、ギター+フルートという稀な組み合わせだ。53年の録音では、バド・シャンクがフルート(&アルト)を吹いているが、英文ライナー・ノートには「モダン・ジャズで初めてフルートをソロ楽器として使用したセッション」だと書いてある。
バド・シャンク木管楽器ならなんでもソツなくこなすマルチ・プレイヤーだが、申し訳ないが、僕は彼のフルートのソロだけは好きになれない。バド・シャンクはやはりアルトのひとだ。とはいえ、「バードランドの子守唄」のテーマでのギターとのアンサンブルは独特のいい雰囲気を出している。
一方の56年の録音でもフルートが入っていて、こっちはバディ・コレット。チコ・ハミルトンなんかとやってた人だ。「ザッツ・オール」でのビブラートを効かした感動的なフルート・ソロが圧巻。(フルートに関しては)バド・シャンクとの器量の差が歴然としている。
ケッセル自身のプレイは、やはり56年のプレイが洗練されていてどれもカッコイイが、53年の演奏では、「Tenderly」の渋いテーマ弾きと後半のコード・ソロが好き。バップ調の「Vicky's Dream」等の速弾きでは、よく言われるスイープ・ピッキングが炸裂するが、僕はギターのテクニックについては全く無知なので、その辺の話はやめておく。


あるアメリカの雑誌に載った記事に、ケッセルがチャーリー・クリスチャンについて語ったおもしろいコメントがある(和訳が最悪だが)。
「チャーリー・クリスチャンと共演するという幸運に恵まれたことがある。あいつは私より迫力があり、精力的で、音が大きかった。私が批評でもなんでもなく「お前の音はでかいなあ」と言うと、やつはこう答えたのさ。「自分の音を聴きたいからね!」


エレキ・ギターも、音がでかいとか・・・関係あるんだ!?
ほんとに僕はギターについては無知だなぁ、と思った。


50年代の100枚リスト