(15) Jazz at Massey Hall (1953)/ Charlie Parker

ビ・バップ・イディオムの創始者ともいえるチャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)、バド・パウエル(p)、マックス・ローチ(ds)の4人にチャールズ・ミンガス(b)を加えたクインテットによる、1953年トロントでのライブ録音である。(ミンガスはとりあえず置いといて・・・)この4人のジャズ・ジャイアンツが一堂に会したのは最初で最後だったし、”この時期としては”全員がかなり好調な演奏に終始していることから、このアルバムは「ジャズファン必聴の名盤」として名高い。
が、僕は、このアルバムはジャズの初心者にはお勧めできない。例えばジャズのアルバムを最低100枚程度は聴いていて、ビ・バップの価値を再確認するために聴く、そういうアルバムだと思う。


主催者はあのJATPみたいな安易な顔見世興行を目論んだのかもしれないが、この機を逃す手はないとばかりに、準備万端、このライブを録音したのがチャールズ・ミンガスだった(というか、ミンガスは自分が立ち上げたDebutというレーベルの音源にしたかったのだが・・・)。
ところが、テープが上がってきて聴いてみると、ベースの録音レヴェルが低すぎてほとんど聴こえない。「なんじゃい、肝心の俺様の音が入ってねーぞ!」ということで、後からミンガスがベース音の一部をオーバー・ダビング&イコライジングして発売したのが、もともとのこのアルバムだった。
そんなオーバーダビングの不自然さやマイク・バランスの悪さもあって、録音的には53年という段階では最悪の部類に入る。どうせ録るならもうちょいまともに録れよな、ミンガス! 余計な改ざんはするなよな、ミンガス!
で、最近はオーバー・ダビング前のオリジナルから掘り起こしたバージョンがCD化されているが、昔はこのいささかゲテモノ臭いレコードを「世紀の名盤」として聴かされたのだった。演奏の内容は別としても、こういった(ある意味マニア向けの)音源を、ジャズ初心者に向けて、「必聴盤」として触れ回った批評家たちのバランス感覚の欠如が、いかにジャズ・ファン予備軍をビ・バップとモダン・ジャズから遠ざけたことか!


で、以下は100枚以上はジャズを聴いてきた人たちのために記す(^o^;


ガレスピーとローチの二人はプロフェッショナル根性の塊だから、どんな状況でも一定水準以上のプレイをするのは当たり前。問題は、パーカーとパウエルだった。
キャバレー・カードを取り上げられて主に地方巡業を生活の糧としていたチャーリー・パーカーは、弟子(?)のレッド・ロドニーが麻薬でパクられたのを機に、麻薬から足を洗おうとしていたが、逆にアルコールにどっぷり嵌まり、体調は最悪。手ぶらでトロント入りしたパーカーは、どこかでプラスティック製のアルトを手に入れてきて吹いた。もちろん昼間から相当飲んでいた。
バド・パウエルは麻薬渦からくる一種の精神病の治療のためサナトリウムに入院していたが、ここでの治療というのが悪名高い電撃療法というやつ(パウエルはこのせいで神経をズタズタにされたといわれている、肝心の指の神経も含めて・・・)で、この時はサナトリウムから出てきた直後だった。演奏前から泥酔状態。休憩時間にも、近くのバーで飲んだくれて戻って来ず、主催者に連れ戻されたらしい。
いや〜な予感のするパーカーとパウエルの状態だったが、さらに折悪しく、このライブ当日の同時間、ロッキー・マルシアーノとJ.J.ウォルコットのヘビー級タイトルマッチが重なり、2500人収容の大ホールに集まった聴衆は700人そこそこ。こりゃあ赤字でギャラも踏み倒されかねないと踏んだパーカーが、主催者と直談判して支払を確約させた、という逸話も残っている。


と、まともに開始され滞りなく終了できたのが不思議なくらい、ヤバ〜イ状況のマッセイ・ホールだったわけだが、以外なことに(!?)、パーカーもパウエルもテンションの高い超ド級の快演をぶちかましてしまった。
これを「奇跡」と呼ぶ輩もいるが、それは侮辱というものだ。ちょっと興が乗れば、この程度の「奇跡」はいつだって起こせる、それが天才というものだ。


僕は、誰が何と言おうと、パーカーとパウエルに関しては「天才」と呼ぶのを微塵も憚らないが、ここでの彼らのプレイがいかに快演だったとしても、それはもう過去の演奏の反復とセルフ・コピーでしかなく、ビ・バップのオリジナル・イディオムはすでにこれ以上の行き場を失くして消尽しつくしていた、と感じざるをえない。そこにはもう、ジャズ・シーンを根底から揺るがすような圧倒的な力は、ない。


何度も言うが(^o^; これは、最低100枚以上はジャズを聴いてきた人が、ビ・バップの価値を再確認するために、そしてビ・バップの終焉を看取るために、聴くべきアルバムだ。


今夜はちょっと酔っ払っております・・・。


50年代の100枚リスト