(9) New Concepts of Artistry in Rhythm (52) / Stan Kenton

ニュー・コンセプツ・オブ・アーチストリー・イン・リズム+4 (紙ジャケット仕様)

ニュー・コンセプツ・オブ・アーチストリー・イン・リズム+4 (紙ジャケット仕様)

今、BSでやっているアカデミー賞授賞式の総集編というのを見ながら書いているが・・・ウェスト・コースト・ジャズの隆盛の背景にはハリウッド映画があった、というのが定説だ。
40年代後半から50年代の初頭、TVが普及する前の最後の繁栄を誇ったハリウッドでは、膨大な量のサウンドトラックの録音のために、スタジオ・ミュージシャンの需要が高まり、多くの優秀な白人ミュージシャンがLA周辺に集まるようになる。譜面を初見で正確に演奏できるテクニックはもちろんだが、映画の製作に即応できるすぐれた作編曲の手腕も広く求められた。


そうした状況の中で、スタジオ・ワークに飽き足らないジャズ系ミュージシャンがフルタイムでジャズをやるためには、当然それなりの受け皿が必要であって、その受け皿となったのが、スタン・ケントンとウディー・ハーマンの2つのビッグ・バンドだった。巨大空母に発着する飛行機のように、多くのプレイヤーやアレンジャーが入れ替わり立ち代りこの2つの楽団を去来した。ハーマン・バンドの名演は、1st&2ndハードを初めとして40年代に集中しているので、ここではケントン楽団のアルバムを取り上げる。


古くはスタン・ゲッツから、シェリー・マン、アート・ペッパーバド・シャンクズート・シムズ、リッチー・カミューカ、リー・コニッツ、サル・サルバドール、メイナード・ファーガソン、フランク・ロソリーノ等の奏者や、ケントン・ガールズと呼ばれたアニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、クリス・コナー等のシンガーが有名だが、なんと言ってもケントン・バンドの斬新なサウンドを支えたアレンジャー連中がすごかった・・・ピート・ルゴロ、ショーティ・ロジャーズ、ジェリー・マリガン、ビル・ルッソ、ビル・ホルマンレニー・ニーハウスといった作編曲の名人達がモダンで秀逸なスコアをこのバンドに提供した。


日本では、このバンドの実験臭さや、1950年にぶち上げた40人編成の巨大バンドみたいな大仰さが毛嫌いされるのか、(オムニバス物を除けば)CDで聴けるケントンのアルバムはほんの数枚に過ぎない。が、このアルバムではこういったプログレッシブな志向はやや角が取れて、シャープだが結構スウィンギーな演奏が聴ける。
特に、トランペット5本+トロンボーン5本からなる怒涛のラッパ軍団の迫力は圧巻だが、逆にリー・コニッツやリッチー・カミューカのサックス隊が繰りひろげるクールなアンサンブルやソロが対照的。ソリストでは、他にフランク・ロソリーノのプレイが印象的で、J.J.ジョンソンを除けば当時最高のトロンボニストだったことがわかる。
作編曲はビル・ルッソのものがほとんど。ビル・ルッソのアレンジは、(007の)ジョン・バリー等、サスペンス系の映画音楽に少なからぬ影響を及ぼしたらしいが、このアルバムを聴くとなるほどとうなずける。


おもしろいのは、「Prologue (This Is An Orchestra!)」でのケントンのメンバー紹介。よくコンサートでやるように、一人一人(いかしたコメント付きで)メンバーを紹介していくケントンの達者なしゃべりは、プロのMC顔負けの流暢さと迫力。こうしたリーダーの資質がビッグ・バンド経営のキモであることがよくわかる。


ちなみに、この録音のメンバーは下記のとおり:
Stan Kenton (piano);
Lee Konitz, Vinnie Dean (alto sax);
Richie Kamuca, Bill Holman (tenor sax);
Bob Gioga (baritone sax);
Conte Candoli, Buddy Childers, Maynard Ferguson, Don Dennis, Ruben Mcfall (trumpet);
Bob Burgess, Keith Moon, Frank Rosolino, Bill Russo (trombone);
George Roberts (bass trombone);
Sal Salvador (guitar);
Don Bagley (bass);
Stan Levey (drums);
Derek Walton (percussion).
Kay Brown (vocals);


50年代の100枚リスト