(8) Now's the Time(52-53) / Charlie Parker

ナウズ・ザ・タイム+1

ナウズ・ザ・タイム+1

若い頃から麻薬浸りだったチャーリー・パーカーは、50年代にはもう麻薬とアルコールで身体も精神もボロボロのヘロヘロで、55年の死に向けて最後の坂道を転げ落ちて行く過程だった。
それでも、52〜53年頃には体調のよい時期もときたまあって、そういう時には、このアルバムの2つのセッションのように、その気になれば若手の追随者が束になってかかってもかなわないような快演をぶちかますことができた。歩くのも難儀だった晩年のベーブ・ルースが、代打で出てきてどでかいホームランをかっ飛ばしたようなもんだ。


もし、最近モダン・ジャズを聴き始めて、その始祖たるチャーリー・パーカーを聴いてみようかななどという奇特な方がいらっしゃるなら、最初に聴くのはこのアルバムが一番いい。パーカーのピークの演奏は40年代のサヴォイやダイアルといったレーベルに記録されているが、なにしろ音が悪い。ヴァーブのパーカーは比較的録音状態が良いし、このアルバムは珍しいワン・ホーン・カルテットで、全篇パーカーのアドリブを堪能できる。


前半の4曲が1952年12月のレコーディングで Hank Jones(p) Teddy Kotick(b) Max Roach(d)、後半の4曲が1953年7月のセッションで Al Haig(p) Percy Heath(b) Max Roach(d) のメンバー。
僕が持っているCDの油井正一氏の解説(LP版の転載)では、この2つのセッションの間にパーカーの自殺未遂があったように書かれているが、これは間違い。愛嬢プリーの突然の死の後、異常をきたしたパーカーがヨードを飲んで自殺しようとしたのは、54年の秋頃のはず・・・。とはいえ、どちらかといえば52年の演奏の方がちょっと調子がよいのと、53年の方は(僕の持っているCDでは)エコーがかかり過ぎていてリアリティーを損なっている。


収録8曲(13テイク?)のうち、スタンダード曲が「The Song Is You」と「I Remember You」の2曲。こうしたテーマ吹奏でのフェイクのしかたや、コード・アドリブのスタイルは往年のパーカーの独壇場で、ホーン奏者は皆こぞってマネしたのだった。
ブルース以外のオリジナル・チューンが2曲。超高速で吹きまくる「Kim」の2テイクは、このアルバムの白眉で、希有のスーパー・テクニックとドライヴ感を見せつける。そういえば、ルイ・マルが『死刑台のエレベータ』の10数年後に撮った『好奇心』で、この演奏が流れていたシーンが妙に印象に残っている。
「Confirmation」は、パーカーのオリジナルの中でもトップクラスの名曲だ。ナベサダの愛奏曲だったし、矢野沙織嬢もデビューアルバムの冒頭がこの曲だった。実はこの曲をちゃんと吹きこなすのは結構難しいらしくて、サックス奏者の技能やノリやタイム感覚をためす試金石だったりする。


あとの4曲はすべてブルース・コードもの。
ミディアム・テンポの「Laird Bird」と「Cosmic Rays」では、カンサス流?の粘っこいフレーズに倍テンポの速いフレーズを絡めるやりかたが絶妙。ややハイテンポの「Chi Chi」の4テイク(1つはやや遅め)でのプレイは、すべてブルース・アドリブのお手本だ。
アルバムタイトルの「Now's the Time」は、45年の初演以来パーカーも何百回と吹いてきただろう。ここでの演奏は流麗だが、お馴染みのストック・フレーズ乱発で、もはや新しい展開に挑戦するような気概は感じられない。
たぶんパーカーは、音楽的にももう煮詰まりきっていて、ここから一歩も先に進めない袋小路だったのかもしれない。このアルバムは、燃え尽きる寸前のパーカーが放った最後の火花だ。


50年代の100枚リスト