髑髏城 Castle Skull(1931)

髑髏城 (創元推理文庫 118-12)

髑髏城 (創元推理文庫 118-12)

ライン河畔にそびえる古城、髑髏城。その城主であった稀代の魔術師、メイルジャアが謎の死を遂げてから十数年。今また現在の城主が火だるまになって城壁から転落するという事件が起きた。この謎に挑むのは、ベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵と、その宿命のライヴァル、アンリ・バンコラン。独仏二大探偵が真相をめぐってしのぎを削る。(創元推理文庫

都会から夜の闇が無くなって久しいけれど、むかしは夜というのは暗いものだったし、昼でも家の内部というのは薄暗いのがあたりまえだった。まして、ライン河畔の古城とくれば、これはもうすこぶる暗い、昼も夜も。
カーはこの古城の深い闇と、それを背景にゆらめく蝋燭やランプの光、その光にほの暗く照らされる不気味なオブジェたちをしつこいぐらいに描写する。この明と闇のコントラストとその揺らぎの絵画的な描写でもって不安や恐怖を煽るカーのやりかたは、ほとんど偏執的でゴシックというよりはバロックで、ほとんどマニエリスムだ(なんのこっちゃ・・・?)。
この辺の描写は、翻訳の文体の古臭さ(50年前ぐらいの訳だ)と相俟って、ちょっと、いやかなりカッタルいが、まあ、カーに(読みやすさという意味での)リーダビリティーを求めて読む人は少ないだろうし、我慢して読むしかない(^o^;


3作目にしてすでにカー特有のグロテスク志向は充満しているが、一方、カーのもう一つの特徴である不可能興味や派手なトリックはまだ表面に出てきていない。魔術師メイルジャアの消息をめぐるコノテイションが背景にあるが、殺人方法やトリックに破天荒なところはなく、推理モノとしてのプロットはごく標準的なフー・ダニットものだ。
そのあたりはカー自身も自覚していたのか、プロットの平板さを補うために、バンコランとフォン・アルンハイムの推理合戦という趣向を導入したのかもしれない。この趣向が、(面白さという意味での)リーダビリティーを一段アップしていて、僕は楽しく読めた。
僕は、終盤でのフォン・アルンハイムの解決は基本的には推理できて、それを逆転するバンコランの解決があるはずだとは思ったが、僕が指名した犯人は残念ながら間違っていた・・・。


>次はバンコランものの第4作、『蝋人形館の殺人』を読む予定。これは今は絶版状態のようなのでアマゾンでポケミスの古本を注文した。明日着くだろう。


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