Viva Blues! (3)

50年代のブルース曲をもう少し・・・と思ったけれど、あんまり沢山あるのでやめた。で、60年代のブルース演奏を3曲。60年代ともなれば、もはやブルースといっても超モダンなコード付けやモード処理されて、一聴しただけではブルースだと気付かない曲も多い。でもそこがブルース・コードの懐の広さ、「黄金進行」たる所以だ。


Israel/John Carisi
Explorations
ギル・エヴァンスとの付き合いも深いジョン・キャリシが書いたマイナー・ブルース。マイルスの『クールの誕生』(49)に収録されて有名になったが、ちょっとエキゾティックなメロディー・ラインとモダンなハーモニーからして、えっ、これがブルース?って感じの曲だ。
この曲の名演は、なんといってもビル・エヴァンス=スコット・ラファロのピアノトリオの演奏(61)。エヴァンスのピアノはよくスロー・バラッドのリリカルなプレイが賞賛されるが、ジャズ・ピアニストとしてのエヴァンスの本当の凄さは、オン・ビートでの度肝を抜くアイデアとスウィング感、タイム感覚だと思う。
エヴァンスとラファロのインタープレイはあまりにも画期的だったが、実は僕はスコット・ラファロのゴニョゴニョした速弾きソロはあまり好きではない。が、それはそれとして、ここでのエヴァンスは前時代のブルース演奏とは明らかに地平の違う音を鳴らしている。


The Eye Of The Hurricane/Herbie Hancock
MAIDEN VOYAGE '99
ハービー・ハンコックがマイルス・バンドで培ったモードのコンセプトをスタイリッシュに仕上げた名盤『処女航海』(65) の中のマイナー・ブルース。フレディー・ハバードがかなりハードでモーダルなアドリブで突っ走れば、ジョージ・コールマンも負けじと先鋭なプレイを展開する。が、ここでのハンコック、いまいちノリが悪いように聴こえる。というか、妙に音を選んでいるのは、ちょっとでもブルース・フィーリングを残したかったからか?(多分違うって・・・)
70年代に入って、Headhuntersのエレクトリックなフュージョン一世風靡したハンコックは、76年のNew Port Jazz Festivalの懐古的なセッションを皮切りに、V.S.O.P Quintet(『処女航海』のジョージ・コールマンをウェイン・ショーターに替えたメンバー)で再びアコースティックなジャズを展開するが、その演奏はある意味65年の焼き直しに過ぎなかった。逆にいえば、65年の時点でコードやモードに基づくジャズ演奏は、(マイルスとその周辺において)行き着くところまで行っていた、っていうことか・・・。


Matrix/Chick Corea
Now He Sings Now He Sobs
チック・コリアの初ピアノ・トリオ・アルバム『Now He Sings, Now He Sobs』の中の超モダンなブルース曲。それまでブルー・ミッチェルのコンボやスタン・ゲッツの『スウィート・レイン』での演奏がそれなりに評価されていたが、このアルバム1枚でチックは同時代のトップ・ピアニストであることを証明した。このアルバムを聴くかぎり、テクニック・センス・アイデアともハンコックの一枚上を行っている。間違いなく、歴代のピアノ・トリオ演奏の中でも白眉の快演だ。
驚くのはロイ・ヘインズのドラミングのカッコイイこと・・・。抑制のきいたシンバル・ワークとちょっと硬めにチューニングしたスネアの引き締まったプレイに、ほとんど彼のダンディズムを感じてしまう。それでいて、チックやヴィトウスに勝るとも劣らないモダンな感性。パーカーとやっていたころのヤンチャ坊主と同一人物とは思えない・・・(^o^;