Viva Blues! (1)

パッヘルベルのカノン」というのは誰でも何度かは耳にしたことがあるはず(ウチでは「お風呂が沸きました」の合図がこれだ)。この曲で繰り返し使われる和声の進行(つまりコード進行)は、その後世界中のあらゆる曲の中で使われ、「黄金進行」と言われるそうだ。
[ C−G−Am−Em−F−C−F−G7 ]
または
[ C−G−Am−C−F−C−D7−G7 ]
といったパターンの「黄金進行」は、(この変型を含めれば)現代のポップスや歌謡曲の類でも圧倒的に使用頻度が高いらしい。

一方、ジャズやロックや一般にブラック・ミュージックと言われるジャンルでの「黄金進行」がブルース・コードだ。ブルース(Blues:正しく発音すればブルゥズ)は、もちろん一つのジャンルとして綿々と続いているが、ジャズやロックで言うブルースは普通12小節のブルース・コードに基づく曲をいう。ごく基本的なブルース・コードの型は、
[C−C−C−C|F−F−C−C|G7−F−C−C]
っていう呆れるほど単純な3コードだが、ここにブルーノート(Bb、Eb,Gb等)を加えると黒人音楽特有のサウンドになる。もちろん、このままだと、チャック・ベリー風のロックンロールぐらいにしかならないので、ジャズ、特にビ・バップ以降のジャズでは7thや9thや代理コードを自由に使ってモダンなハーモニーを生み出していった。だから、20年代のシカゴスタイルのブルースと60年代のモダンなブルースでは、同じブルースでも天と地の差がある。

で、今日は、パーカー以降のモダンジャズで僕の好きな曲をいくつか挙げてみる。


Billie's BounceCharlie Parker
At the Opera House
バードの出身地であるカンザス・シティーは、ブルースが盛んだったし、エイト・ビート的なリズムも胎動していてロックがらみでも重要な都市だが、カウント・ベーシー楽団の本拠地だったから、レスター・ヤング→パーカーのラインでもモダン・ジャズにとって無視できない街だ。バードの曲でもブルースはかなりの割合を占める。「ナウズ・ザ・タイム」、「パーカーズ・ムード」、「リラクシン・アット・カマリロ」、「オゥ・プリヴァーブ」等がパーカーズ・ブルースの定番。
「ビリーズ・バウンス」の名演はいっぱいあって、リー・コニッツやジミー・スミスなんかの変り種の演奏も面白いが、何といってもスタン・ゲッツとJ.J.ジョンソンの「At The Opera House」があまりにもカッコイイ!


Straight, No Chaser/Thelonious Monk
Milestones
ビ・バップのもう一人の巨人セロニアス・モンクもブルースをたくさん書いている。「ブルー・モンク」とか「ミステリオーソ」とかが有名。
マイルスとモンクは犬猿の仲と言われるが、マイルスは「ラウンド・ミッドナイト」をはじめ、モンクの曲を結構録音している。ホントに嫌いな奴の曲などやるはずがないから、モンクを音楽家として尊敬していた証拠だ。
さて、『Milestones』でのストレート・ノー・チェイサーだが、ここでのマイルスのソロでの音使いは、あの「バグスグルーブ」で(モンク抜きで)吹いたフレーズと妙に似ていて面白い。キャノンボールが「ナウズ・ザ・タイム」でのパーカーのクリシェ・フレーズを吹けば、ガーランドはマイルスがパーカーとのサボイ・セッションで吹いたソロをブロック・コードで引用する。しかし、この時期マイルスの頭の中で次の時代に向けて巡っていた事態を思うと、キャノンボールとガーランドのこの乗りはどこか物悲しい・・・。
ちなみにブランデーなんかをストレートで飲む時、口直しあるいは酔い覚ましのためにグラスで出てくる水を「チェイサー」と言うが、このタイトルは「水はいらんよ!」の意味。


Tenor Madness/Sonny Rollins
Tenor Madness
ロリンズとコルトレーンの唯一の共演レコーディングとなったこの曲、ロリンズの名でクレディットされているが、ほんとはケニー・クラークが作った曲で、Rue ChaptalとかRoyal Roost とか呼ばれ、バップ期のジャムセッションによく使われたシンプルなブルース曲。ロリンズとマイルス・バンドのリズム・セクションの共演となったこの日のセッションだが、コルトレーンが飛び入り参加した経緯からいっても、この1曲はその場で「何かブルースでも・・・」という感じでジャムセッション的に始まった演奏だろう。
1956年5月、ということはあの「サキコロ」の約1ヶ月前のセッションだが、この日のロリンズは「サキコロ」の豪放磊落・快刀乱麻に比べると妙に落ち着いて地味な印象、というかやや楽器が不調かな?という感じもする。
一方のコルトレーンは、ちょうどマイルスのマラソン・セッションやラウンド・ミッドナイトのセッションをやっていた合間で、まだまだテクニック的には未熟の感が否めないが、マイルス・バンドでの演奏では見られないリラックスした自由なアプローチが聴ける。特にロリンズのプレイと比較すると、コルトレーンのフレージングやトーンはヘタクソながらやはりめちゃくちゃユニークで新しい。このユニークさは、45年のパーカー・バンドでのマイルスのヘタクソなプレイに相似している。


(多分)つづく・・・