ミシェル・ルグラン/ロシュフォールの恋人たち

1958年、ハネムーンで渡米したルグランのもとに馳せ参じたメンバー・・・マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンベン・ウェブスターフィル・ウッズビル・エヴァンスアート・ファーマードナルド・バード、etc.・・・この呆れるほどの豪華な顔ぶれを見ただけでも、ミシェル・ルグランが、26歳にしてすでにアメリカのジャズ・ミュージシャンにとっても一種のカリスマ・アレンジャーだったことがわかるというものだ(ルグラン・ジャズ +3の話です・・・)。

60年代に映画音楽のヒット・メイカーとなってからの仕事では、「シェルブールの雨傘」、「風のささやき(華麗なる賭け)」、「おもいでの夏」といった名曲が有名だが、彼が映画の仕事で残した最高傑作は、ジャック・ドゥミ監督と組んだシネ・オペレッタとでも言うべきミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』だ、と僕は断言する。

ロシュフォールの恋人たち ― リマスター完全盤

ロシュフォールの恋人たち ― リマスター完全盤

カトリーヌ・ドヌーヴフランソワーズ・ドルレアックの美女姉妹を主役に配したこの映画、役者は役者・歌手は歌手というコンセプトで、(ダニエル・ダリュー以外は)歌は全て吹き替えだが、主な吹き替えはあのスイングル・シンガーズのメンバーが担当していて、その辺がこの映画の音楽を1ランク上のレヴェルにした要因だ。バッハをシャバデュビア♪で歌ったジャズ・セバスチャン・バッハで一世を風靡したこのグループだが、リード・ソプラノがミシェル・ルグランの姉であるクリスチャンヌ・ルグランだ。

CDでは長いこと、デモ版を基にしたショートヴァージョンしか聞けなかったが、98年に2枚組みの完全版がやっとフランスで発売された。これには、サウンド・トラックのほかに、ルグランのピアノ演奏やフィル・ウッズのジャズ・ヴァージョンなどが付録で付いていて楽しい。

日本では、僕がガキの頃「双子姉妹の歌」がカバーされてヒットしたが、最近では「キャラバンの到着」が車のCMで使われてから有名なようで、『スウィング・ガールズ』の裏レパートリー(映画では使われなかった)としても知られている。
オープニング・テーマに続いて奏されるこの「キャラバンの到着」、ベースとヴァイブの掛け合いからバス・クラが絡み、サックスとヴァイブの主旋律、ブラスのモダンなアンサンブル、コーラス、ストリングス、トランペット・ソロからスキャットの掛け合い、最後はピアノ・ソロ・・・と、あらゆる楽器の特徴を熟知した繊細なアレンジで、ルグランの面目躍如、怒涛のサウンド・クリエーターぶりを発揮している。

その他、ジャズを基調としてボサノヴァ、ラテン、ワルツ等秀逸なスコアの連続だが、ルグランがこの映画のために書いた2つの「シャンソン」がまたいい。この2曲は幾つかの場面で「愛のテーマ」的に使いまわされるので複数のタイトルが付けられているが、1曲は後にビル・エヴァンス等が取り上げてジャズのスタンダードになった「You Must Believe in Spring」の原曲。楽しい曲の多いこの映画では唯一の哀調メロディー。
もう1曲は、「シモンの歌」や「イヴォンヌの歌」のタイトルで歌われる、正にシャンソンと言う感じの美しいメロディー。特にダニエル・ダリューおばさんの歌唱が秀逸。
昨晩、僕はこの歌を3回聴いてから寝たところ、「フランス語の竜巻」?に巻き込まれて空に打ち上げられるという、奇妙な夢を見た(^o^;