エラリー・クイーン 『クイーンの定員』

エラリー・クイーンがミステリ界の巨匠として君臨する所以は、その小説群もさることながら、書誌学者・編集者としての力量に負うところが大きい。
『クイーンの定員』(Queen's Quorum)は、そのクイーンが、ミステリ創成期からの短編集を厳選した希有のアンソロジーだが、個々の短編集に関するコメントも秀逸で、短編探偵小説史としての価値も高い。
92年に光文社文庫(4分冊)から出た時、僕は喜び勇んで買い漁ったが、今では残念ながら絶版状態らしい。ただし amazon で検索したら、ユーズド商品で結構在庫があるようなので、興味のある方は是非・・・。

探偵小説は、エドガー・アラン・ポーという文学上の巨人をその始祖として持つが、ポーはまた、近代の「短編小説」というジャンルを理論的*1・実践的に確立した人でもあった。
ポーが短編小説という形式の可能性を追求する過程で探偵小説が生まれたと考えると、探偵小説はそもそも短編というスタイルと切っても切れない関係にあったといえる。
19世紀的なリアリズムとそのコンテナとしての「長編小説」というスタイルが文学を席巻するなか、探偵小説も次第に長編主体に移行していったが、昨今の長編ミステリの閉塞状況を考えると、原点に立ち戻って、短編ミステリについて再考するのもあながち時代錯誤とは言えないはずだ。

*1:ナサニエル・ホーソーンの『Twice‐told tales』に関する論文が、ポーの短編小説論の白眉である、とされているそうだ。