The Days of Wine and Roses

プリーズ・リクエスト

プリーズ・リクエスト

オスカー・ピーターソンのリキの入った演奏、これでもかとばかりにスーパーテクニックと猛烈なスウィング感でもってピアノをかき鳴らす様は、快感を通り越してちょっと疲労感を誘うものがある。というわけで僕はピーターソンは苦手だが、このアルバムに関せば、リラックスした雰囲気の中で、有名どころのスタンダードばかりをなかなか上品かつキュートに料理していて、安心して聴ける。
中でも2曲目の「酒とバラの日々」が快演だが、、今日はあんまり書くことがないので、「酒バラ」の話でもしようかな・・・。


酒とバラの日々(Days of Wine and Roses)
1962年にヘンリー・マンシーニが書いた同名映画の主題歌だが、アカデミー賞の主題化賞をとったこの曲は、以後ジャズ奏者たちに最も好まれるスタンダードのひとつになった。
マンシーニについては以前どこかで書いたので、今日は歌詞の話。
この曲の詩を書いたジョニー・マーサーも、超ド級のソング・ライターで、数限りないスタンダード曲(何百曲?)を書いているが、マンシーニとのコンビでは「ムーンリバー」、「酒とバラの日々」、「シャレード」の映画主題歌3レンチャンが有名。


この”Days of Wine and Roses”というフレーズは、実は19世紀末のデカダン詩人Ernest Dowson(1867-1900)の詩に由来している・・・という薀蓄は僕の専売特許だと思っていたら、『ジャズ詩大全』*1という本でちゃんと解説されていて、ダウスンの原詩が和訳付きで紹介されている。


The days of wine and roses
They are not long
The weeping and laughter
Love and desire and hate
I think they have no portion in us
After we pass the gate


酒と薔薇の日々
楽しき日々は短い
涙と笑い
愛と欲望と憎悪
だがその命も
われらが時間の扉を通り抜けるまで


ところが、この引用はどこでどう間違ったか知らないが、明らかに原詩と違う。これをそのまま孫引きしているホームページやブログも幾つか見かけたので、この際異を唱えておこう。
ほんとうのダウスンの詩は、こうだ・・・


Vitae Summa Brevis Spem Nos Vetat Incohare Longam
(The brief sum of life forbids us the hope of enduring long
- Horace)


They are not long, the weeping and the laughter,
Love and desire and hate:
I think they have no portion in us after
We pass the gate.


They are not long, the days of wine and roses:
Out of a misty dream
Our path emerges for a while, then closes
Within a dream.


最初のラテン語のタイトルは、ホラティウスの所謂carupe diem(現在を愉しめ)という思想を言っていて、だからここでのthe days of wine and rosesは享楽主義のシンボルだ。これを、逆説的にアル中の隠喩としたこの『酒とバラの日々』という映画、以前は主題歌はいいが映画は駄作だというのが定説だったが、最近では佳作との再評価の機運が高いようだ。
その意味でも、間違った引用の一人歩きは防いでおきたいと思うわけで・・・


ほんとはマーサーの歌詞の全文も載せたいが、歌詞の全文掲載は著作権に関わるらしいので、やめておく。

*1:『ジャズ詩大全』は現在19巻&番外編が数冊出ていると思う。「酒バラ」が載っているのは、Vol.2。僕は、この圧倒的な労作を罵倒する趣旨は全然ない。これは、あらゆるジャズ・ヴォーカル・ファン、ヴォーカリスト、ミュージシャンのバイブルである。たまには間違いもあるさ。