大阪弁モドキ

夕方、新宿近辺で仕事が終わったので、今日は早く帰ろかなぁと駅前を歩いていると、背中から声をかけられた。昔ちょっとだけ付合いのあった大阪人で、あまり深入りしたくない奴なので、挨拶だけして早々に別れようとしたら、
「そや、ちょっとKさんの意見を聞きたいことがあるんや。30分だけ、付きあってくれまへんでっしゃろか?ビール1杯だけ・・・」
ご免こうむりたかったのだが、ちょうど喉も渇いていたし、ビール1杯だけ、ということで近くのショボイ居酒屋に入った。


「いやあ、ご無沙汰でんなぁ、あの節はホンマいろいろお世話んなりまして。」
「いや、別にお世話なんて・・・その後順調に行ってるの?」
「まぁ、今はボチボチでんがな。そやけど、今、知り合いがやってるでかいプロジェクトに参加してましてな、これがうまいこと行って、間もなくどさーって銭が入ってきまっせぇ!」
「へぇー、それはよかったですね。」
・・・・・
「っでね、このプロジェクト進めんのにめっちゃ金がかかりましてなぁ。わいも500万ばかり金出しとるんやけど・・・そん中に、ちーとばかしある筋から借りた金がありましてな・・・」
「ある筋っていうと、いわゆるヤミ金かね?」
「そやねん。それも筋金入りの(ヤ)系やわ。借りたのは300万ばかりなんやけどね。」
「そりゃぁ、たいへんだね〜・・・」


(なんかいやな予感がする。)


「っで、2・3日中に金利ぐらいは払わんと、エライことになんねんわ。」
金利っていくらなの?」
「もちろん、1割や。」
「いわゆるトイチってやつ?」
「そうやて、よう知ってはりまんな。っで、金利ぐらいは払わんと・・・」
「そりゃ、払うしかないでしょ、30万。相手こわいし。」
「それがあらへんから困っとるんや。っで、折り入って相談なんやけど、その30万、10日ばっかし貸してくれまへんでっしゃろか?」
「なんや、何の相談かと思ったら、金の無心かいな、無理、無理!」


(こっちもなんとなく大阪弁調のイントネーションになってくる。僕は大阪出張が多いので、大阪弁の真似事は得意なのだ。)


「そお言わんと。10日、いや1週間で耳そろえて返しまっから。」
「人に貸すような金ないって。一介のサラリーマンに何でそんな金あるんや?」
「何をおっしゃる、うさぎさん。ぎょうさん儲けてらっしゃるくせにぃ・・・」
「じょ、冗談こかんといて。暮らすのに精一杯やわ。」
「そんなん言わんと、貸してぇや。払わんと指の1本2本すっ飛ぶんや。わいを見殺しにする気かいなぁ。」
「け、けったいな話せんといてぇや。あんたの指がどうなろうと俺の責任じゃないでしょう?ほんまに、よういわんわ。」


(僕も興奮してきてどっちつかずの言葉になってしまう)


「さよか。もうええや、もう頼まんわ。あんさんそんな人やったんかいな。」
「なんのこっちゃ!失礼なやっちゃな、ええかげんにしいや!!」


と、つい大阪弁で声を荒げてしまう僕だったが、そいつはちょっとヤバイと思ったのか、小声で「ほな・・・」とつぶやくと、席を立って、何もなかったようにそのまま店を出て行ってしまった・・・金も払わずに。
しょうがないので、僕は鳥カラをつまみにジョッキ1杯飲み干してから、二人分の金を払って店を出た。千何百円の金がこんなに悔しかったのは初めてだ。
ああ、けったくそわるい!