(35) Chico Hamilton Quintet (1955) / Chico Hamilton

ブルー・サンズ (紙ジャケット仕様)

ブルー・サンズ (紙ジャケット仕様)

西海岸を本拠地とした黒人ミュージシャンとしては、前にレヴューしたデクスター・ゴードンハンプトン・ホーズがいるが、なんといってもチコ・ハミルトンのチーム・リーダーとしての才覚は西海岸でもひときわ異彩を放っていた。
彼が1955年に立ち上げたクインテットは、バディ・コレット(as,ts,cl,ft)、フレッド・カッツ(cello)、ジム・ホール(g)、カーソン・スミス(b)、チコ・ハミルトン(ds)という変則フォーマットで一世を風靡した。


以前紹介したジミー・ジュフリー(2006-05-19 - and i am dumb)も、自身のマルチ・リード・プレイと変則ユニットを配した室内楽的な演奏が特徴だったが、ハミルトンのグループでサックスやクラリネットやフルートを吹いているのがバディー・コレット。作編曲を含め、このユニットのサウンド的な支柱は多分この人だったのだろう。特に、前にも書いたが、フルートの腕前はバド・シャンク等と比べても格段とレヴェルが上である。
コレットが発掘して後釜にすえたエリック・ドルフィーは58年にこのクインテットでデビューしたが、映画『真夏の夜のジャズ』の中でドルフィーがフルートを吹くハミルトン・グループの「ブルー・サンズ」の映像と演奏が有名になったからか、同曲のオリジナル演奏を含むこのアルバムの邦題は『ブルー・サンズ』となっている。英題は「Chico Hamilton Quintet Featurinng Buddy Collette」である。同年に同じパシフィック・レーベルから出た「チコ・ハミルトン・クインテット・イン・ハイ・ファイ」というアルバムもあるので、要注意。この2枚の出来は甲乙つけがたいが、個人的には「In Hi-Fi」のよりリラックスした洒脱な雰囲気が好きだ。が、この稀有なクインテットのデビュー盤であるこのアルバムに敬意を表してこっちを選んだ次第。


コレットの変幻自在のマルチ・プレイヤーぶりも見事だが、このグループの一番の売りはやはりチェロの導入ということだろう。オスカー・ペティフォードなどがベースの持ち替え楽器として演奏するケースはあったが、ここでのフレッド・カッツのチェロはメインのアンサンブルやソロで活躍し、完全にフロントの役割を担っている。カッツは、リナ・ホーンの伴奏者等も務めたピアニストでもあって、チェロでもなかなか流暢なアドリブを繰り出す。クラシック畑から突然引き抜いてきたチェリストではこうはいかない。
リーダーのチコ・ハミルトンは、めったにスティック打ちをしない人で、ここでもほとんどがブラシとマレット、そして直接の手打ちでやっている。ピアノがなく、通常のシンバル・レガートもないリズムセクションというのは、やはり僕らが聴き知ったジャズのサウンドとはかなり異質だ。そこがこのユニットの稀有な魅力であり、すこぶる退屈な所以でもある。


50年代の100枚リスト