絞首台の謎 The Lost Gallows(1931)

絞首台の謎 (創元推理文庫 118-15)

絞首台の謎 (創元推理文庫 118-15)

〜夜霧のロンドンを、喉を切られた黒人運転手の死体がハンドルを握る自動車が滑る!十七世紀イギリスの首切役人〈ジャック・ケッチ〉と幻の町〈ルイネーション街〉が現代のロンドンによみがえった。魔術と怪談と残虐恐怖を、ガラス絵のような色彩で描いたカーの初期代表作。『夜歩く』につづくバンコランの快刀乱麻を断つが如き名推理!(創元推理文庫

舞台をパリからロンドンに移しての、バンコランものの第2弾。死人が運転する(?)車や、絞首台、首切役人といったイメージは、怪奇趣味というよりはかなりの残虐趣味で、この辺はカー以外にはやらんだろうなぁっていう感じのマニアックな嗜好ではある。その意味では、すでにカーの面目躍如の感があっておもしろかった。
フランス、イギリス、そして次作の『髑髏城』ではドイツに舞台を移すが、歴史の深い闇を背景に持つヨーロッパという土地がカーにとって必要不可欠のトポスであったことが実感される。
後に、カーは本格推理の枠を超えてこの歴史の闇にじかに切り込んでいくことになるが、この小説に登場するピルグリム医師は、歴史上の事件を素材に犯人を推理するという「歴史の探偵」の異名を持ち、まるで後年のカーの歴史ものを暗示しているかのごとくである。


本格ミステリとしてみると、この小説はまだまだカー全盛期のレヴェルには遠く及ばない。怪奇的な趣向の持続にこだわるあまり、どうも解決に至るプロットや伏線の引き方がギクシャクしてすっきりしない。「最初からすべてお見通し」のバンコランの思わせぶりな態度が、イライラを募らすばかりで、サスペンスに貢献しているとは言いがたい。
もしかして、怪奇と合理というアンビバレンスの昇華は、バンコランという探偵役ではちょっと無理があったのかなぁ、と思ったりする・・・。


この土日はちょっと忙しいので、来週から『髑髏城』を読むことにする。


カーの長編リスト