ダスコ・ゴイコビッチ Dusko Goykovich

アフター・アワーズ(紙ジャケット仕様)

アフター・アワーズ(紙ジャケット仕様)

旧ユーゴ・スラヴィアの南部はアレクサンダー大王の故郷。現在は古来の国名を踏襲してマケドニア共和国になっているが、この地方出身の「哀愁のバルカン・トランペッター」ことダスコ・ゴイコビッチは押しも押されぬ東欧随一のジャズ・ミュージシャンだ。出世作はその名もスインギン・マケドニア (紙ジャケット仕様)(1966)。「マケドニア」、「アレキサンダー大王の結婚行進曲」、「バルカン・ブルー」といったちょっとドメスティックなタイトルの曲が印象的だった。
もともとメイナード・ファーガスンやウディー・ハーマン等のビッグ・バンドを渡り歩いた経歴を持つゴイコビッチは、ビッグ・バンドへの愛着も大であったらしく、最近ではセルビアの大統領のたっての懇願でビッグ・バンドを編成し、ハンドフル・オブ・ソウルというビッグ・バンドの快作を残したりして、チーム・リーダー&アレンジャーとしても大活躍のようだ。
が、僕が学生の頃(70年代)に聞くことのできたダスコのアルバムは『アフター・アワーズ』(1971)1枚だけで、日本では知る人ぞ知る、ぐらいの人だった。
スペイン出身の、これまた大陸随一のスーパー・テクニシャン、テテ・モントリュー(p)と組んで作られたワン・ホーン・アルバムがこれ。しょっぱなの「ラスト・ミニット・ブルース」では、ダスコもテテもモーダルでモダンなフレーズを多用し、スピード感溢れるモダン・ハード・バップの典型だ。
3曲目の「オールド・フィッシャーマンズ・ドーター」は、ダスコのオリジナルではベストと言われる3拍子の美しいテーマだが、ダスコのマイルスばりのミュート・プレイがこのアルバム中でも白眉となっている。テテの1分20秒余りのテクニカルで実にゴージャスな前奏(というかピアノソロ)が、もうひとつの聞き物で、この曲に華を添える。この2曲で決まりだ。
惜しむらくは、ドラムとベース。余計なオカズを多用してダラダラとメリハリのないビートを刻む。せっかくのテテとダスコのスウィング感を台無しにしている・・・。