ジョアン・ジルベルト Joao Gilberto

AMOROSO (イマージュの部屋)

AMOROSO (イマージュの部屋)

僕が20歳ぐらいのとき、当時札幌にあった「ボッサ」というジャズ喫茶で初めてこのジョアン・ジルベルトのアルバムを聴いた。そこでジョアンが歌う「Wave」を聴いていたら、ふと「あれっ?これって、もしかしてブルース?」と気がついた(何だか小林秀雄風の書き出しだなあ・・・)。
僕はコード理論ニガテだから細かい話は避けるが、そもそもサビを除けば12小節だし、おそらくモダン・ジャズ系のブルースを代理コードとかディミニッシュ展開とかの理論でやりくりすると「Wave」のコード進行に変換できる、はずだ、きっと。

ジョアンのケダルイ歌唱法はチェット・ベイカーの影響を受けたというが、一方そのギターから繰り出される、自然なようで極度にテクニカルかつ繊細な和音は、ウェスト・コースト・ジャズのクールでアーバンなハーモニーから得るところが大だったようだ。
言ってしまえば、ボサノヴァはサンバとジャズのフュージョンだったのだ。

名盤『Getz/Gilberto』では、自分のパートを勝手に削除されたシングル盤「イパネマの娘」が大ヒットし、コマーシャリズムに翻弄された感のあるジョアンだったが、このアルバムは、プロデューサー、アレンジャー、エンジニアから個々のミュージシャンまで、ひたすら天才ジョアン・ジルベルトのために、一致協力して最善の仕事をしているのがわかる。
LP盤でいうとB面は⑤「Wave」、⑥「Caminhos Cruzados(十字路)」、⑦「Triste」、⑧「Zingaro(白と黒のポートレイト)」と、すべてアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲を配置していて、これらのボサノヴァ・スタンダードを歌うジョアンはもちろん絶品だが、曲目としておもしろいのはA面の4曲だ。
ガーシュイン作の①「'S Wonderful」は珍しく訛った英語で歌うが、スタンダード曲のボサノヴァ化のお手本。②「Estate」はイタリアの曲で歌詞もイタリア語。夏の夕暮れを思わせる気だるい哀愁バラード。先日、レコード屋でこの曲をトランペットで吹いた演奏がかかっていたが、Dominick Farinacciという人だった。ついそのCD(スマイル)も買ってきてしまった・・・。③「Tin Tin Por Tin Tin」は唯一サンバ調の軽快な曲だが、リズムはパーカッションに頼らずジョアンのギターを前面に出している。このギターがまたかっこいい。ちょっと口でタイトルを言うのは憚られるが・・・(^。^; そして、④「ベサメ・ムーチョ」。どっちかというと濃くて脂っこいこのラテンナンバーも、ジョアンの手にかかるとシックでアーバンなボッサ・バラッドに変身してしまう。ここでは、スペイン語で歌っている。


この珠玉のアルバム、昔から「アモローソ」あるいは「アモローゾ」と言っていたはずだが、何時からか知らんが日本盤のCDには『イマージュの部屋』などという下種なタイトルが付けられていて腹が立った。世界遺産に落書きするようなものだ・・・。